2020年3月8日日曜日

中国の落日

Gerhard Richter 'Mao'

2018年、半世紀以上増え続けてきた中国の就業人口が前年比マイナスに転じた。前に就業人口が減ったのは1961年・62年で、毛沢東の「大躍進」政策の失敗により引き起こされた飢餓によるものだから、尋常ではない。これには生産年齢人口(15~59歳)の減少が影響している。日本なら退職年齢、つまり年金受給開始年齢の引き上げを検討するだろうが、習近平は人民の反発を恐れて実施することができない。このまま行くと、生産年齢人口は2020年代に毎年800万人程度減少、2030年を過ぎると現在より1億人減少、2045年には現在より2億人も減ってしまう。
それより気になるのは中国の総人口の動向であるが、中国政府系の中国社会科学院の予測では、2027年にピークを迎え、以降はマイナスに転じると報じられている。このような予想は全く当てにならず、実は2018年時点で既にマイナスに転じたとも言われている。それが事実なら、かつての一人っ子政策のつけで子を産む女性人口が歪に少ないため、今後は少子高齢化が急速に進み、年金財政は悪化するだろう。
習近平は「中国製造2025」を発表して、2025年までに「世界の製造強国の仲間入り」を果たし、2030年代の早期にGDPで米国に追いつく腹積もりであったため、2025年以前に総人口がピークを迎えることは非常に都合が悪い。今も米国は総人口が増え続け、アジアには若くて勢いのあるインドが急成長している。習近平にとって、中国が富む前に国力を喪ってしまうシナリオは許容できないものである。
運が悪いことに武漢ウイルスによる急性肺炎の感染が中国全土に拡大したため、中国経済は建国以来経験したことのない停滞を余儀なくされている。国内消費は既に冷え、サプライチェーンは寸断され、信用保証の乏しい中国企業は存続の危機に晒され、「中国製造2025」の目標達成がより困難になりつつある。

劉慈欣・著「三体」を読了した。

第三部「人類の落日」のパートは、この時期、いろいろと刺激的だった。著者が中国人ゆえに、三体人=米国、人類=中国という図式が思い浮かんだ。中国が党政府主導で高い経済成長率を維持できれば、2030年代にGDPで米国を追い抜いてしまう。そうなれば中国が国際秩序を脅やかす存在になるため、米国としては、中国が富む前に様々な手段で経済成長を遅らせ、高齢化社会に導くことで国力を削いでしまうのが望ましいと考えるだろう。トランプ大統領は三体世界の元首のような存在である。

2020年に予定されている続篇「黒暗森林」の刊行が待ち遠しい

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